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 ※毎週金曜日配信 2002年8月9日 第10号
経済論評
『空洞化を阻止する広島県製造業の第二次国際化』
田中靖彦 ひろぎん経済研究所 主任研究員


 広島県はモノづくり県である。これは永年語られてきたフレーズであるが、果たしてそうだろうか? 答えは、否である。かつての呉海軍工廠やマツダ発祥、 さらには備後工特といったイメージから、重厚長大型製造業の集積県と思われがちだ。たしかに平成元年の数値では、県内総生産に占める製造業のウエートは 28.2%と全国平均の26.9%をわずかに上回り、当時はまだかろうじてモノづくり県と言えたのかもしれない。しかし足元では、当県の製造業のウエートは22.9%で、 全国平均の23.2%を下回っている。ウエートだけではない。その間、全国の製造業の生産額は1.5%増加しているのに対し、当県では7.7%も落ち込んでいる。
 この製造業の低迷要因については、意見が分かれるところである。例えば、「中国地域の中枢県であるから、産業がよりサービス化しつつある」という使命論や、 「モノづくりはアジア諸国へ移ってしまった」という空洞化論などがあり、私の考えは後者にやや近い。
 かつての先進国が産業革命という名のもとにまず軽工業から輸出を始めたように、まず繊維産業が日本からアジアに出ていった。当県の大手縫製企業のアジア生産比率は、 もはや8割にも達する。次いで鉄鋼など基礎素材関連、さらには機械産業と、方程式どおりに日本からアジアに生産がシフトしていく。当県の製造業の象徴である自動車でさえ、 今後の主力車種を中国で一部生産するという。アジア製品の品質向上は目覚しい。しかも、アジアへの生産拠点の移行はコスト削減を目指した各社の経営判断によるものではあるが、 このままではなんとも淋しい気がしてくる。
 製造コスト面だけを比べれば、現状ではアジア諸国にはかなわない。「企画部門だけ日本に残せばよい」という意見もきく。ただ、企画部門だけで当県ひいては日本全国の 雇用を維持できるだろうか。確かに、労働力の供給面からみれば、当県の人口は一昨年から既に減少に転じ、全国の人口も2006年から減り始める。しかし、こうした縮小均衡を ただ待つのではなく、新たな活路を見出してはどうか。減っていくことを指をくわえて見ているだけでなく、既存産業が新分野への参入を果たし、これまで培われてきた技術力を 存分に発揮して、成功を収める姿を思い描きたい。
 その場合には、単独での事業展開だけでなく、海外企業と結びつく選択肢もある。新産業の集積に際し、補助金に頼りながら国内企業の誘致合戦を繰り広げるのも結構だが、 欧米やアジアの優秀な企業にももっと視野を広げてはいかがだろうか。アジアへの生産拠点移行が製造業の第一次国際化なら、逆にこうした海外企業の呼び込みは第二次国際化ということになろう。
 幸いにも当県は、国際平和都市「ヒロシマ」として海外からの知名度は抜群である。当県が海外企業をどんどん受け入れる先進県として評価されることによって、 既存企業も触発され相乗効果を発揮できるのではないだろうか。
 そのためには、海外企業ならびにその従業員を快く受け入れる、県民の懐の深さが試される日も近い将来やってくる。行政や県民が一体となって自ら国際化に身を投じ、 ひいては県内製造業が第二次国際化という新しいイメージを引っ提げて飛躍することに期待したい。
経済長編読物
 『錯綜した妥協の産物、概算要求基準』(8月7日(水))

 2003年度予算の概算要求基準が、6日の経済財政諮問会議で決まった。一般歳出規模では、財務省が機械的に試算した49兆円から約1兆円減の48兆1000億円を削減目標に設定。 この中で、注目の公共投資関係費を3%の小幅削減にとどめたことは、小泉純一郎首相の改革路線と与党の要求が折り合ったものだが、そこに財政再建に道をつけたい財務省と、 一層過激な歳出カットを主張する諮問会議の民間議員の思惑が絡んで、決定まで神経戦を繰り広げた。
 ◇経済低迷に矛先鈍る
 昨年、02年度予算編成では、首相は参院選大勝の勢いで、公共事業の10%削減を強引に与党にのませた。それに比べ、今回の3%という小幅な削減目標の意味合いは玉虫色を帯びている。
 まず、族議員の利害とは別に、与党が「米国など国際経済が先行き不透明だ」と懸念を示すことは、景気認識としては正論。株安や円高で景気が底割れすれば、 1997年に消費税率上げなどで財政を引き締めた揚げ句、同年秋の金融パニックに至った橋本内閣当時の失政≠フ二の舞になる危険性がある。経済活性化策に決め手を欠く政府は、 与党要求を突っぱね切れる状況ではない。
 財務省は、塩川正十郎財務相が前面に立ち、公共事業でまずは10%削減を打ち出したが、与党側は前年並み確保を主張。「ゼロと10の中間の5(%削減)はだめだ」 (麻生太郎自民党政調会長)という強い姿勢に、同省があっさりと3%削減まで退いたのは8月1日だった。同省の景気に対する不安、政策運営の迷いが感じ取れる。
 ◇首相、景気配慮に傾斜
 むしろ、財務省にとって、鋭い対立は諮問会議の民間4議員との間にあった。4議員が主張したのも公共事業の10%削減で、一般歳出総額では02年度比5000億円減額の47兆円。 歳出削減分は法人減税に回す立場だ。このカットの大胆さ≠ノ、武藤敏郎事務次官は「経済全体の中での予算の位置付けを議論すべきだ」と、歳出削減一辺倒の民間議員に不快感すら示していた。
 「予算を切り込むための(自民党の)部会との調整は誰がやると思っているのか」(主計局)―。諮問会議への反発の声には、微妙な思惑も見え隠れする。抵抗勢力との 共存姿勢も垣間見え始める小泉政権の下では、もはや与党との正面衝突を回避し、風圧を避けて組織防衛に腐心することも財務省にとって必要な処世術だ。
 小泉首相は7月26日の諮問会議後に「歳出削減を上回る(1兆円超の)減税を考えられないか」と発言、つなぎ国債による先行減税も容認して景気配慮に傾斜していた。 「先行減税1兆円超」を政府部内で合意したのも、公共事業の削減幅を3%に決めたのと同じ8月1日。これは、公共事業削減率の圧縮について、見返りに法人減税の可能性を示すことで 、諮問会議民間議員との取引≠促したとも受け取れる。一方、与党とは、公共事業削減を小幅にとどめ、今秋の補正予算論議をひとまず封じた。ただ、いずれも景気の先行き次第で崩れる、もろい妥協の構図だ。
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