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 ※毎週金曜日配信 2004年9月24日 第119号
経済論評
『社会保険と情報システム』
 大場 充 広島市立大学情報科学部教授


 社会保険庁は昨年10月、自民党「e-Japan重点計画特命委員会」から政府に申し入れのあった「レガシーシステム改革指針」に基づく旧式な情報システムの改革要請に対応すべく、 社会保険オンラインシステム刷新可能性調査専門家会議を設置し、システム刷新可能性調査の検討に入った。座長は、明星大学人文学部の大橋有弘教授が務めている。
 その委員会は、具体的にシステムの刷新可能性調査を担当するコンサルタント企業を決定し、当該企業による調査報告を審査・承認するとともに、各分野の専門家の立場から調査内容を検討し、 調査方法等に関する助言を行うことが任務である。そのため、大学関係者や監査法人のコンサルタント、ITの専門家、ジャーナリストなどが委員として参加している。会議は、基本的に公開である。 筆者も専門委員の一人として会議に参加している。
 昨年12月、専門家委員会では、公募に応募した内外のコンサルタント会社や監査法人の中から、米国IBMの関連会社で、元プライスウォーターハウスである、IBMビジネス・コンサルティング・サービス社に、 調査業務を委託することを、同社から提出された提案書の内容に基づき、ほぼ満場一致で決定した。同社は、本年2月までに、予備調査を実施、4月からの本調査計画を取りまとめて、専門家委員会に報告、承認された。
 「レガシーシステムと呼ばれる旧型のシステムを刷新すべし」とした自民党の特命委員会の論理は、旧型の大規模コンピューターシステムの維持と運用に社会保険庁等の省庁が投入している予算が莫大(ばくだい)であり、 一般企業と同様にパーソナルコンピューター等を有効に活用することで、そのような省庁の予算を大幅に削減できるのではないかとの根拠に基づいている。例えば、社会保険庁がオンラインシステムの維持と運用に毎年投入している予算は、 500億円に近い額になっている。
 政府のシステムでなくとも、一般にメーンフレームと呼ばれる大型コンピューターシステムの維持と運用には莫大(ばくだい)な費用がかかる。2つの大規模なシステムを稼働させている社会保険庁では、 年に数百億円の費用がかかることは、それほど常識はずれとは言えない。ただし、500億円が妥当な数字かどうかは別問題である。筆者の個人的な試算に基づけば、高すぎると言える。ただし、詳細を検討しなければならず、安易な決め付けはできない。
 筆者なりにこの世間常識よりやや高めの維持・運用費の原因を分析すると、その主たる原因は、レガシーシステム自身よりも、社会保険庁におけるこれまでの調達方式にあると言える。これも社会保険庁や他の省庁だけでなく、日本企業一般に観察できる、 共通の高コスト要因である。そして、それは15年前に、バブルがはじけ、急激な円高が始まるまでは、わが国の産業・社会の強みの要因でもあったのである。
 社会保険庁の例で言えば、最も重要で大規模なシステムは、電電公社時代のNTTによって開発され、それ以来、同社によって継続的に維持・運用されている。当時は、官の一部として、かつ国内で最も技術力のあった、電電公社のデータシステム本部へ委託された。 この決定に疑念を差し挟む余地はない。
 しかしその後、NTTは民営化され、私企業になり、さらにデータシステム本部は、NTTデータという日本一のソフトウエア会社として分割された。民間企業であるNTTデータ社が、利潤を追求することは正当であり、 その結果多額の維持・運用費をユーザーに請求するのも当然である。もはや、システムは巨大化し、複雑であり、NTTデータ社以外に維持・運用を引き受けられる企業はない。
 そのような独占的な状態を作り出した原因が、わが国に多い「随意契約」という形態の調達にある。「全ての随意契約が社会悪である」とは断言できないが、政府等の公的機関における随意契約は、国家秘密等その必要性が認められない限り採用すべきでなく、 公募型の入札方式にすべきであろう。昨日まで合理性のあった方法が、今日も合理的である保証はどこにもない。
 社会保険庁に対して、IBMビジネス・コンサルティング・サービス社は、「年間100億円以下の予算でも、同等なシステムの維持・運用が可能である」との報告をしたが、考慮されていない要因も多く、試算の精度が悪い。専門家からも、多くの異論が出された。 概算で言えば、真実は500億円と100億円の間、300億円前後になるであろう。いずれにしろ、500億円は高い。
 しかし、今、IBMビジネス・コンサルティング・サービス社が主張するように、NTTデータ社から他社、例えばIBM社に委託先を変更することは、技術的に不可能である。NTTデータ社がこの数十年の期間に蓄積した社会保険システムに関する業務知識を、 短期間で他社に移転することは不可能である。プログラムに組み込まれているが、記述されていない規則が多いようである。
 社会保険庁の問題に限定して言えば、現時点での短期的な解決策の選択肢はない。調達の方式を変え、競争的な公募・入札方式を導入して、システムの一部を少しずつ、NTTデータ社だけでなく、他社にも委託することで、長期的視野に立ち、変えてゆくことが望まれる。 今、日本の中には、類似の問題が山積している。決して、社会保険庁だけの問題ではない。

【プロフィール】 大場 充(おおば みつる)
1949年 東京都生まれ
1973年 青山学院大学大学院修士課程修了(理工学研究科)
1974年 日本アイ・ビー・エム株式会社入社(製品保証)
1982年 同 東京基礎研究所(主任研究員)
1984年 同 東京基礎研究所ソフトウエア工学担当マネージャー
1990年 米国IBMエンタープライズ・システムズ出向(副主幹研究員)
1993年 日本アイ・ビー・エム株式会社SE研究所(副主幹研究員)
1994年 広島市立大学情報科学部教授
経済長編読物
『個人客確保へ店づくり強化 都市銀、ニーズに柔軟対応』(9月22日(水))

 都市銀行が相談業務に特化した店舗や場所を取らない小店舗など、個人客のニーズに合わせた営業拠点づくりに力を入れている。きめ細やかなサービスでサラリーマンをはじめとする顧客層のすそ野を広げ、収益源を強化するのが狙いだ。
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 繁華街にある一部の店では平日は午後9時まで営業する。無料の資産運用セミナーを夜間に開き、仕事帰りに寄ってもらう工夫もしている。
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 企業は長く続いた不況下でリストラや資産圧縮に努め、今では経営状態が良い会社ほど資金を借りてくれない。その中で個人客が持つ資産は「銀行が稼げる最後に残された優良市場」(銀行幹部)と注目されており、個人客の取り込みを目指す各行のサービス競争は今後も続きそうだ。

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