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 ※毎週金曜日配信 2005年9月16日 第169号
経済論評
『田舎のねずみと都会のねずみ』
 大場 充 広島市立大学情報科学部教授


 突然の郵政解散による総選挙が、自民党の地滑り的勝利に終わり、郵政民営化法案の成立は時間の問題となりました。 この法案に対して、総論において反対する国民はそう多くはないでしょう。つまり、今回の総選挙は国家的イシューに対する民意を問うと言う選挙ではなく、 何か別の意図で仕組まれた政治イベントのような気がします。
 今回の選挙では、広島6区の亀井候補の対抗馬として、自民党本部から送り込まれたと報道された堀江候補が、どこまで亀井候補に肉薄するかが、 全国的に話題となりました。堀江候補が選挙事務所を構えた尾道市内は、連日、報道陣が詰めかけ、また、観光客もホリエモン見たさに集まるなど、 経済効果も大きかったようです。
 この2候補の選挙戦を見て、米国寓話の「町のねずみと村のねずみ」を思い出しました。経済的には恵まれていても、時間に追われ、 交通事故の危機につねにさらされている都会のネズミと、都会のねずみの豊かさに憧れ、都会に出てきた田舎のねずみの物語です。 失礼を覚悟で言えば、さしずめ亀井候補がスリムな田舎のねずみで、堀江候補が太めの都会のねずみのようでした。
 解散直後に、亀井候補の地盤である庄原市の関係者と話したとき、次のような話を聞きました。 「今回は、さすがの亀井さんも刺客にやられるかも知れない。備北地域でいくら亀井さんが票を集められても、尾道・三原ではホリエモンさんが圧倒的に強いだろうから、数の論理で負けてしまう。」  そうです。「数の論理」こそが、今回の選挙の隠れた争点だったのではないでしょうか?
 すなわち、「都会と田舎」そして「多数と少数」の対立です。小泉首相や堀江候補が焦点を絞り、選択を迫ったのが、「都会」であり、 「多数」です。それに真っ向から対抗しようとしたのが「田舎」と「少数」を代表した亀井候補でした。小泉さんと亀井さんの間に国家観、主義、主張に、 もともとそれほど大きな差があったとは思えません。しかし、二人の政治哲学は、基本的な部分で最初から対立していたとも言えます。
 郵政民営化は、国家や都市の視点からみれば、「郵便貯金や年金・保険の巨額な資金をどう活用すべきか」と「収益性のない郵便事業の切り離し」 の問題に絞られます。竹中大臣や米国の主張は前半の問題、一点に集中しています。地方や田舎の視点から見れば、郵政の問題は郵便、すなわち通信基盤の問題です。 電話と郵便は、田舎に住む人々にとって、最も重要な通信手段です。電電公社の民営化によって、電話網を基盤とした通信は、結果的に中山間地域や島嶼(しょ)部では有効利用ができないものになりました。 似たようなことが、郵便事業で起こる可能性は高いでしょう。
 確かに、郵便事業を民間に開放し、自由化することによって現郵政公社の負担は激減するでしょう。都会の人々から見れば、歓迎すべきことです。 しかし、田舎の人々から見れば、それは田舎の切り捨てです。田舎の通信基盤は、江戸時代のそれに逆戻りするわけですから。 問題は極めて複雑で、郵便事業において全国一律のサービスを確保しようとすれば、必ず都会の人々にとって負担増を伴うことです。
 現在、高速インターネットを低コストで利用するためのADSLサービスを、広島県庄原市の一部など、田舎の人々が利用できないのは、 民営化されたNTTでは、最初から赤字が見込まれるサービスを事業化するのは、資本家に対する背任行為になるからです。 いくらNTTの社員が「地域のためにやりたい」と思っても、資本主義の枠組みの中では、実現不可能です。 JR可部線の一部区間廃止も、全く同じです。
 都市のねずみが考える経済の活性化と、田舎のねずみが考える経済の活性化は、資本主義の枠組みでは、時として対立する場面が出ます。 これは、一般化すれば先進国が考える経済活性化と、開発途上国が考えるそれとの違いや、米国が考える経済活性化と、 日本が考えるそれとの違いに似ています。確かに、日本が経済のグローバル化が急速に進展する現在、市場経済の論理に適合しないやり方を続ければ、 その経済競争力は落ち、国力も衰えるでしょう。
 ここにこそ、我が国において差し迫った政治課題があります。ある程度、我が国の将来の経済発展を犠牲にしても、 今、生きている国民の生活を守るべきか、将来の国民生活と国家の繁栄を選択すべきかの問題です。民主党の戦略は、従来から後者でした。 自民党の戦略は、従来は両者のバランスを取るようなものでしたが、小泉政権になって、後者にシフトしてきました。 その意味では、亀井候補の政治戦略は以前の自民党のものであると言えるでしょう。
 今回の選挙で、国民の多数は「今、生きている田舎の人々の生活は犠牲にしても、日本経済の将来の発展を選ぶ」という選択をしたわけです。 この選択が正しかったかどうかの結論が出るのは、多分、20年後でしょう。大変、興味深いものがあります。単純に「犠牲になる人の数が少なければ良い」と言うのが、 多数決(マジョリティ・ルール)の原則です。従って、都会と田舎という対立軸で選挙をすれば、このような結果になることは、初めから分かっていたはずであると言えます。
 多数決ではない民主主義における問題解決の方法のひとつに、「コンセンサス」があります。これは、全ての関係者が納得できる解決策が提案できるまで、 原案の修正を続けると言うものです。この問題解決法の弱点は、時間がかかることです。小泉首相には、この選択肢もあったはずですが、結論の早い多数決を選択しました。 その決断の背景には、純粋に「問題を解決しなければならない」というだけではない、時間をかけられない理由があったのではないかと推察できます。
 少数の田舎のねずみは、たくさんの都会のねずみに負けました。田舎のねずみに残された道は、寓話のように田舎に帰ることです。 そして、もう一度作戦を練り直して、再挑戦することです。結論は変えられませんが、都会と田舎の対立は当分の間続くでしょう。途中で、流れは変わるかも知れません。 大切なことは、都会のねずみを説得することや、理解を求めることではなく、新しい解決案や、新しい問題解決法を提案することです。新しいリーダーが必要です。
 通信基盤の問題で言えば、経済的には絶対に見合わない田舎の通信網整備も、都会のねずみにとって利益があることを示すべきです。 例えば、田舎から出て都会のねずみになった子ねずみたちにとって、親ねずみの介護負担は経済的にも肉体的にも大問題です。親ねずみが元気なうちは問題がありません。 通信基盤が整備されており、介護の体制も整備されていれば、親ねずみがある程度元気である間は、都会の子ねずみの負担は軽減されるはずです。
 もうひとつ田舎のねずみに必要なことは、都会のねずみに対して「都会のためのルールを、田舎に押し付けるべきではない」ことを主張することでしょう。 「経済原則に従って事業を実施すべき」は、都会の論理であり、都会では正しくても田舎で正しいとは限りません。多くのサービスは、市場の小さな田舎では事業として成立しません。
 だからと言って、田舎を見捨てることがこの国の将来にとって正しい選択と言えるのでしょうか。たとえ、高齢者が多い田舎であっても、医療・介護サービスは事業として成り立たないでしょう。 特に介護サービスは、キャッシュ・フローの大きな都会でこそ成り立つ事業です。単純化された(都会)論理のステレオタイプが、正しい問題解決を阻害する要因になることは、理論化されているほどよく知られた誤りのひとつです。
【プロフィール】 大場 充(おおば みつる)
1949年 東京都生まれ
1973年 青山学院大学大学院修士課程修了(理工学研究科)
1974年 日本アイ・ビー・エム株式会社入社(製品保証)
1982年 同 東京基礎研究所(主任研究員)
1984年 同 東京基礎研究所ソフトウエア工学担当マネージャー
1990年 米国IBMエンタープライズ・システムズ出向(副主幹研究員)
1993年 日本アイ・ビー・エム株式会社SE研究所(副主幹研究員)
1994年 広島市立大学情報科学部教授
経済長編読物
『BRICsの排出権取得 京都議定書発効で大手商社』(9月14日(水))

 中国、インド、ロシア、ブラジルの新興市場4カ国「BRICs」を舞台に、大手商社が温室効果ガスを排出する権利である「排出権」を取得する事業に力を入れている。これらの国は経済成長が著しく、地球温暖化につながるフロンや二酸化炭素などの温室効果ガスを大量に出しており、先進技術を持つ日本が排出削減に協力すれば、大量の排出権を取得できるためだ。
 京都議定書が2月に発効したことで電力、鉄鋼など日本企業は排出量削減を迫られており、自社排出枠の拡大に必要な排出権は今や人気商品。「環境」をキーワードに新たなビジネス競争が加速している。
 排出権は、温室効果ガスを国や企業が排出できる権利。京都議定書は、途上国の温室効果ガス削減事業を支援し、その削減分を自国の削減枠に参入できるクリーン開発メカニズム(CDM)を導入した。
 日本企業が途上国企業に協力して温室効果ガスを減らせば、それに応じた排出権を得られる仕組みで、商社は途上国の公害防止事業への投資と、日本企業への排出権販売の両面から利益を得られる。
 排出権の取得先として最も注目されているのが中国だ。京都議定書に参加していないため削減目標を課されておらず、ガス回収設備の設置が遅れているため大量の温室効果ガスを出している。
 丸紅は、日揮などと共同で中国企業のガス削減に協力する。丸紅の山地秀人市場業務部部長代理は「大きな削減効果が期待できる上に、日本に近く投資コストも少なく済む」と、中国に着目した理由を説明。三井物産や住友商事も、中国の炭鉱から出るメタンガスを回収して発電に利用し、排出権を得る事業に乗り出している。
 ブラジルやインドも有望だ。住友商事はインドで、温室効果ガスを焼却処理し排出権を得る事業を展開。伊藤忠商事はブラジルで、養豚場から出るメタンガスを回収しており、他の南米諸国にも広げていく考えだ。
経済サロン 藤井泰夫のビジネス談話室
『服飾から薬膳、風水など異業種多角経営』
  オオタ社長 大田玲子氏
会員からの情報 メディアクラブ会員だより
広島の景気観測 速報(平成17年8月分・広島商工会議所・経済情報サービス)

広島ガス発行「ガスのあるくらし2005.9」から

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