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 ※毎週金曜日配信 2006年9月15日 第219号
経済論評
『地域の経済循環と社会関係性』
 柴田 浩喜 社団法人中国地方総合研究センター情報開発部長


 筆者の家は中区である。家の近所に1軒のケーキ店があって、手作りのケーキやお菓子がおいしくいつも賑わっている。バースデイケーキの注文が入ったときには、「○○ちゃん、おめでとう」のメッセージが店先のボードに書き込まれる。店舗の前を行き交う人には、知った子の名前であることも多いだろう。売り場からは奥の調理場がガラス越しに見えるのであるが、クリスマスなどの繁忙期には、近所の若い子と思われるアルバイトが増えてとても活気がある。若い女性にはアルバイト先としても人気があるはずである。出かける際に手土産が必要なときはその店でお菓子の詰め合わせを買って、先方に「近所のパティシエの手作りです」と言って渡せば贈り物に少し心を込めることができるような気持ちがするし、相手も関心を持ってくれることが多い。自分の家から歩いて行けるところにそうした店があると、単に近くて便利というのではなくて、何か得した気分になるのは筆者だけではないだろう。大型SCが家に隣接している利便性への満足感とは少し違うようである。どうも、まちの自慢となるようなお気に入りの店は小規模店である方がよいらしい。
 私どものセンターでは、この3月に中国地域の生活者を対象に消費行動に関するアンケート調査を行った。自分自身の行動を思い浮かべながら、その調査の中で、「買物は家の近くで済ますことができるまちがよいと思う」という意見についてどう思うかを尋ねた。調査票では、「家の近く」とは「歩いて行ける範囲」と定義してある。「そう思う」(46%)、「どちらかと言えばそう思う」(37%)と答えた人は83%に上った。これを生活者の「近隣消費志向」と呼ぶ。同じ回答は広島市でも86%に達しており、筆者同様に、家の近くで豊かな消費ができることで生活の満足感が高まる人は多い。また、近隣消費志向が強い人ほど、実際に家の近所にいつも利用する店が多いこともわかった。つまり、近隣消費志向は潜在意識にとどまらず、実際の消費行動に結びついているのである。
 実は、この近隣消費にはもう1つ重要な意味がある。小規模店の場合、大型店やフランチャイズ店と違って店主や従業員が店舗やその近くで暮らしていて、本社・本部などへの所得移転がない。調査ではこの点に着目して、「できるなら同じまちで暮らす人の商店で買物をしたいと思う」という意見についても賛否を問うた。「そう思う」(28%)、「どちらかと言えばそう思う」(33%)という回答は約60%であり、これらの回答者のほとんどは、先の近隣消費を肯定的に考えている人である。つまり近隣消費は、同じまちで暮らす商店主にお金を支払うことを通じて、地域経済における最も小さな経済循環を形成する。人口減少時代となり、地域経済の自立性や持続性が議論される際に決まって検討されるのが、経済循環性を高めるという産業振興の方向である。ところが、地域内購入へのスイッチがコストアップにならないという経済条件をクリアできるかどうかを見極めるのは案外難しい。近隣消費による経済循環は、このことにヒントを与える。
 人々の近隣消費志向の強さを決める要因をみると、ゆっくりとしたテンポの生活を好むスローライフ志向やこだわり・個性を重視した消費志向、あるいは年齢などの要因が把握された。その中で、最も強い規定要因として抽出されたのが、「いま暮らしているまちが好きだ」、「自分のまちは安心して暮らせる」という、まちへの愛着や暮らしの安心感に対する意識であった。このまちへの愛着や暮らしの安心感は、「ソーシャル・キャピタル(社会関係性資本)」という概念で理解することができる。ソーシャル・キャピタルは、「人々の社会的なつながりとそこから生まれる規範・信頼」が代表的な定義であり、どことなくつかみ所のない印象を受けるが、近隣消費の例をみると、その蓄積は経済循環の向上を通じて地域の生産上昇に寄与するという現実的な効果を持つ。まさに「資本」という言葉が示す通りである。
 冒頭のケーキ店は、そもそもケーキやお菓子がおいしいということもあるが、バースデイケーキの注文にお祝いのメッセージを出す、お菓子にまちの名前を付ける、調理場を外から見えるようにする、店舗のファサードを工夫するなど、地域社会とのつながりにさまざまな工夫を凝らしている。筆者はこうした商店経営を「顧客関係性経営」に倣って「社会関係性経営」と呼ぶことができると考える。そして、商店に限らず、こうした事業者の意識が地域経済の持続性を支える鍵になると思う。
【プロフィール】 柴田 浩喜(しばた ひろき)
1990年広島大学大学院社会科学研究科博士課程前期(経済学専攻)修了
社団法人中国地方総合研究センター入所
2003年広島大学大学院社会科学研究科客員教授
2004年社団法人中国地方総合研究センター情報開発部長
(地域経済研究部次長兼務)
経済長編読物
『厳しさ続く中小企業経営 1000社超の再生計画策定』(9月13日(水))

 経営難の中小企業の再建を指導する中小企業再生支援協議会が、都道府県に設立されて3年が過ぎた。再生計画の策定を完了した企業は1000社を突破し、「約7万人の雇用が確保された」(中小企業庁)が、協議会に駆け込む企業数には減少の兆しが見られない。好業績が目立つ大企業とは対照的に、中小企業の経営の厳しさが浮き彫りになっている。

 ▽増える相談

 「予想以上のハイペースが続いている」(同庁幹部)。協議会に持ち込まれる中小企業からの再生計画策定の相談は、今でも全国で月200件超の高水準だ。
 協議会は産業活力再生特別措置法に基づき2003年、各都道府県に設置された公的機関。弁護士、公認会計士ら専門家と協力して経営難の中小企業の経営を指導、再生計画策定を支援する。
 中小企業は専門知識が乏しく、金融機関などとの交渉力が弱いため、協議会が金融機関に融資期限延長を要請するほか、新規借入先への橋渡しなどをする。協議会は今年6月末までに、全国で累計9559社の相談を受け、うち1027社が再生計画の策定を完了した。

 ▽金融機関と調整

 工具製造業の協和精工(秋田県)の場合は、秋田県中小企業再生支援協議会が金融機関との調整役を果たし、債務を一部免除されたほか、県の設備投資資金を貸与する制度も利用して再建のめどが付いた。「公的機関が再生計画の策定に加わることで、債権放棄などで立場の違う複数の金融機関との調整ができた」(同県協議会)という。
 また再生計画では、民間金融機関による融資が困難な企業について、中小企業金融公庫など政府系金融機関の新規融資を活用する事例も多い。スポンサー企業を選定して再生を目指す例も増えている。

 ▽多い不安要因

 再生計画の策定を迫られた中小企業は、過剰な設備投資で資金繰りが悪化したところが多い。策定を完了した企業のうち4割は製造業で「(設備や不動産に過大投資した)バブル経済の悪影響が、まだ尾を引いている」(支援を受けたメーカー)状況だという。
 相談企業のうち、約6割の約5800社は相談を受け問題を解決したが、再建の可能性が低く再生計画づくりを支援できなかった企業は約700社に上っている。
 協議会は現在も約450社の再生計画策定を支援中で、中小企業庁は「金利上昇や原油高騰など経営を取り巻く不安要因が多く、中小企業の本格的な業績回復はまだ先だ」(経営支援課)と分析している。
経済サロン 藤井泰夫のビジネス談話室
『信頼回復へ攻めの営業、新規出店も』
    もみじホールディングス社長 森本弘道氏・もみじ銀行頭取 野坂文雄氏
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