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 ※毎週金曜日配信 2003年3月7日 第39号
経済論評
『手詰まりのデフレ脱却策』
 高橋 乗宣 三菱総合研究所 顧問


 小泉首相は今年の年頭記者会見で、「デフレからの脱却をはかるためにあらゆる政策を総動員する」と言い、 ようやくデフレとの闘いを宣言した。それもそのはずで、日本の名目経済規模は98年から02年まで、 2000年だけを除いて都合4年も前年比マイナスで縮小している。今年もマイナスは避けられそうにないし、 政府見通しでは04年もマイナスだ。大恐慌時の米国経済が縮小したのは1930年から33年までの四年間だから、 日本はそれを上回る長期のデフレにはまり込んでいるのである。
 ところで、「あらゆる政策を総動員する」と言えば聞こえは良いのだが、現実には完全に手詰まりの状態だ。 財政は破綻状態で、公的需要は増やすどころか厳しく抑制されている。金融もめいっぱい緩和されている。 金利は事実上ゼロなのだが、マネーサプライはいっこうに増えないという、典型的な流動性のわな にはまり込んでいるのである。
 そこで、このところやかましくなっているのが「インフレ目標政策」の導入論議である。 一部の論者による思いつきであった間はまだしも、今や日銀の新副総裁にもその強い提唱者が送り込まれようとしているのだ。 デフレ経済下においてインフレ目標政策がなぜ有効だと考えられるのか、いったいどこまで信頼に足りうるのかといったことについて、 実証的にはもとより、理論的にも立ち入った検討はなされていない。どうも、財務当局が苦し紛れで仕掛けたように思えてならない。
 この政策の提唱者は、「金利がゼロでも物価が下がっているから実質金利は高く、 そのために購買行動が抑制されている」という。この点はその通りであり、特に異論は無い。 ところが、「中央銀行が一定のインフレ率を示してそれを政策目標とすれば、 国民にインフレ期待が形成されて実質金利の引き下げ効果が生じ、購買行動を促すことになる」と言う肝心な論点になると、 完全に仮想の範囲にとどまってしまうのである。
 実質金利の低下といっても、それはあくまで将来の期待値であって、決して現実値ではない。 物価が現実に上がり始めれば購買に動くだろうが、実際には物価は下がり続けているわけであって、 目標設定だけで購買行動が惹起されることはあり得ない。インフレ目標を掲げてみても、 それは単にバーチャルな効果にとどまらざるをえないのである。
 百歩譲って、仮にもし、現実的に意味のあるインフレ期待が形成されるとすれば、 たしかに購買行動が誘発されると想定してもよいだろう。だがその時には、長期金利も上昇するということを忘れてはならない。 そうなれば企業の設備投資はさらに抑制されるし、国債を大量に買い持ちしている金融機関は甚大な損失を被ることになる。 国債の格付けが低下している時に、インフレ期待を醸成するような政策をとること自体、とても妥当な選択とは言えないのである。
【プロフィール】 高橋 乗宣(たかはし じょうせん)
1940年(昭和15年)広島県生まれ。
1970年(昭和45年)東京教育大学(現筑波大学)大学院博士課程修了。
大学講師を経て、
1973年(昭和48年)株式会社三菱総合研究所に入社。
主任研究員、主席研究員、研究理事を歴任の後、
2000年(平成12年)4月から、同社顧問、同時に明海大学大学院教授に就任。
2001年(平成13年)5月から、崇徳学園理事長に就任、現在にいたる。
三菱総合研究所ではマクロ経済問題全般をカバーし、入社以来、景気予測チームの主査を長くつとめた。大学では「日本経済論」、大学院で「現代日本経済特論」を担当している。


『市町村合併と商圏』
 増岡 洋 (財)広島地域社会研究センター常務理事


 市町村合併の報道を目にする機会が多い。合併構想をめぐる町長、議会、住民間の合意形成が円滑に進まず、 リコールの本請求、町長の辞職等、町を二分する論争に発展した自治体がある。 また、県が示した基本的な合併パターンとは別の選択を考えている自治体もある。一方、法定合併協議会を設置し、 着々と合併協議が進んでいる自治体もある。
 この違いは何なのか。「商圏」で説明できると考えられる。すなわち、同一商圏の市町村合併構想は円滑にすすみ、 商圏を異にする合併構想にはさまざまな問題が生ずるということである。「商圏」とは、ある市、町の大規模小売店、 あるいは商店街の吸引圏のことであり、消費者からすれば買回り品の買物行動圏のことである。 平成13年「広島県商圏調査」によって「市町村合併と商圏」を考えてみる。
 東城町のケースをみてみよう。同町は庄原市など1市5町との合併をめぐり町長選挙の実施、 合併推進派の町長と単独町政派が多数を占める町議会の対立などを経て、ようやく庄原圏域との合併協議を検討し始めた。
 東城町は県内の「町」としては珍しく他の商圏に属さない独立型の商圏を形成している。町民の買回り品の買物行動をみると、 町外では広島市への流出率が最も高く9.6%、庄原市8.5%、三次市が3.9%となっている。ことに衣料品は、 広島市への流出率が13.1%と高く広島商圏といってもよい。こうしたことは、庄原市と合併協議を進めている総領町など5町が庄原商圏であるのに対し、 東城町は庄原市に隣接しながらも同商圏から一定の距離をおいた商圏域である。
 黒瀬町をみてみよう。同町では東広島圏域と合併を推進する町長にリコール本請求があり、 町長選挙が実施されるなど町政は揺れている。同町は東広島商圏内(東広島市への流出率12.5%)であるが、 呉商圏とも密接なつながり(呉市への流出率8.5%)があり、双方の商業吸引力の影響下にある。日常の買物行動を通して、 東広島市あるいは呉市に親近感をもつ町民に分かれることも理解できる。
 宮島町をみてみよう。同町は広島県が策定した合併の基本的な組み合わせによると、廿日市市等との合併が構想されている。 ところが宮島町民の中には広島市との合併を望む声が強いともいわれている。地理的にみると、 廿日市市に近接しているにもかかわらず広島市との合併を模索する動きがあるのはなぜか。町民の買物行動をみれば理解できる。 広島市中心部への買物流出率が55.3%で、これは広島商圏内53市町村で最も高い。 それだけ広島市に親近感をもっているのではないだろうか。
 一方、合併に向けた協議が順調に推移している市町村がある。吉田町を中心とした高田郡5町、 三次市を中心とした双三郡6町村が代表的事例である。これら市町村の組み合わせは、前者は吉田町を中心とする吉田商圏、 後者は三次市を中心とする三次商圏と一致しており、すんなりと合併への道をたどっている。
 このように、市町村合併と商圏は密接な関連性がある。広島県商圏調査は、県内約2万人を対象として3年ごとに実施されており15年度は8回目である。 県民の買物行動の分析からさまざまなヒントを得ることができる。
経済長編読物
『熱帯びるIP電話 NTT陣営など本格参入』(3月5日(水))

 インターネット技術の活用で格安料金となるIP電話をめぐり、主力企業の取り組みが熱を帯びてきた。NTTグループのNTTコミュニケーションズ(NTTコム)は3月から、IP電話の商用サービスをスタート。 KDDIと日本テレコムを核とする陣営も4月までに、同様のサービスを始める予定だ。IP電話では、ソフトバンクグループが積極的なキャンペーンで先行しているが、新たな2陣営の本格参入で、料金競争も一段と激しくなりそうだ。
 ◇ADSLの普及で弾み
 これまであまりなじみのなかったIP電話がここへきて、割安電話の本命として注目されるようになった背景には、インターネットと高速で常時接続するADSL(非対称デジタル加入者線)の急速な普及がある。
 総務省によると、ADSLの利用件数は、2002年の1年間で3.7倍に拡大し、ブロードバンド(高速大容量)通信の主役に一気に躍り出た。これを今年1月末時点で事業者別にみると、「ヤフーBB」の名称でサービスを展開するソフトバンクグループが 197万2000回線、NTT東日本は124万2000回線、NTT西日本が101万4000回線に達する。
 特に、ソフトバンクグループが通信業界の最大手であるNTTを抑え、ADSLサービスでシェア首位となった大きな要因として、NTT東日本の幹部も認めるのは、「簡単にIP電話が利用できる機能が付いていること」。
 同グループのIP電話「BBフォン」は、基本料と会員同士の通話料が無料で、一般の固定電話に対しては全国一律3分7.5円で通話できる。昨年4月のサービス開始から今年1月末までに、登録した会員は158万5000人で、実に同社のADSL契約者の約8割を占める。 同グループの場合、ネット接続に必要な機器を街頭で無料配布するという思い切ったキャンペーンで話題をまいたが、加えてIP電話が使える利便性がADSL契約の伸びを勢い付けたといえる。
 ◇ソフトバンクの進撃続くか
 一方、NTTコムの提供するネットワークを利用して、同社とプロバイダー(接続業者)のニフティ、ソニーコミュニケーションネットワーク、NEC、松下電器産業は3月から、IP電話の本格サービスを始める。また、KDDIと日本テレコムのネットワークを活用して 商用サービスを開始するのは、両社とNEC、松下などだ。いずれの陣営も月額基本料を取った上で、一般固定電話への通話料を3分8―8.5円の水準に設定し、「BBフォン」を追撃する。
 しかし、NTTコムやKDDI、日本テレコムといった従来の電話事業を手掛ける大手通信事業者にとって、格安のIP電話事業は、自分の首を絞めることになりかねない。それだけに、今回の本格サービス開始も、快進撃を続けるソフトバンクグループに対抗することで、 「本業の顧客が新規参入業者に奪われるのを防ぐ狙いもある」とNTTグループ幹部は明かす。
 ただ、本格サービスが出そろった後もBBフォンの料金が3陣営の中では最も安い。今後もBBフォンの勢いが衰えないようならば、「他の2陣営は基本料の設定を見直すなど、さらなる消耗戦に突入する」(通信業界関係者)可能性がある。
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