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 ※毎週金曜日配信 2002年7月5日 第5号
経済論評
『構造改革の「意図せざる」帰結』
吉澤 昌恭 広島経済大学経済学部教授


 世の中には、意図せざる帰結というものが存在する。
 自分の儲けのことしか考えない個々の経済主体の利己的な経済活動が、市場という「見えざる手」に導かれて、 経済発展という「意図せざる善き帰結」をもたらすことがある。『諸国民の富』(1776)でこうしたことを明らかに することによって、アダム・スミスは経済学の基礎を確立したのである。
 「意図せざる悪しき帰結」というものもある。ある人が自らの貯蓄を増やそうとしていると想定しよう。消費を 切り詰めてその分を貯蓄に回せば、その人の貯蓄は増える。しかし、社会を構成する人々のうちの大多数の者が 同じような行動に出たらどうなるだろうか。総需要の減少・企業の売上の減少・企業の操業短縮・労働者の賃金 減少が起こって、労働者の貯蓄能力は減退し、かえって貯蓄が減少するかもしれない。ケインズは『雇用・利子 および貨幣の一般理論』(1936)で、このようにして起こる「意図せざる悪しき帰結」について論じている。
 ある企業が賃金切り下げによって、自社の生産コストを引き下げて、自社製品の競争力を高めようとするなら、 その企業が売上を伸ばす可能性は高い。しかし、多くの企業が同じような行動に出れば出るほど、賃金総額の 減少・総需要の減少・企業の売上の減少といった「意図せざる悪しき帰結」の起こる可能性が高まる。かくして、 企業の当初の意図は挫かれることとなる。
 構造改革派の議論は、専らサプライ・サイドに注目したものであり、総需要の減少にほとんど配慮していない 、という点に危うさがある。企業のリストラ、不良債権の早期処理に由来する企業倒産の増加と失業率の上昇、 性急な財政再建による政府需要の減退、といったものはいずれも総需要の減少をもたらすものである。総需要が 伸びないという状況下での構造改革は失敗する可能性が高い。かくして、構造改革派の意図は挫かれることに なるだろう。

【プロフィール】 吉澤 昌恭(よしざわ まさやす)
1980年3月 神戸大学大学院経済学研究科博士課程修了
同  年4月 広島経済大学経済学部講師
1985年4月 広島経済大学経済学部助教授
1991年4月〜現在 広島経済大学経済学部教授
経済長編読物
 『日本、円高阻止で苦肉の演出 際立つ焦り』(7月3日(水))

 米経済の先行き不安によるドル安を受けた5月以来の円高局面で、政府・日銀が孤独な戦いを続けている。円売り介入は計7回、額も総額3兆円を超える空前の規模だが、 米欧当局の本音はドル安容認とされ、協調介入には冷ややか。先週末の米欧での委託介入を「協調の証し」(財務省幹部)とする苦肉の演出も、かえって日本の焦りと 孤立を際立たせ、相場反転の道筋は見えないままだ。
 6月28日のニューヨーク、ロンドン市場で、ニューヨーク連銀と欧州中央銀行(ECB)が円売り介入を行った。市場関係者の間に「米欧当局が姿勢を変えたのか」 との驚きが一瞬広がったが、実際は日銀の委託を受けた介入。「欧米と協調したように装い、一時的にでも市場にインパクトを与えようとした」(市場筋)奇策だ。
 すぐにからくりを見破った市場はドル売り攻勢を強め、日本政府のもくろみはむなしく外れた。塩川正十郎財務相は2日の会見で「世界的な相場の急変なので各国が 委託を受理してくれた」と協調姿勢のアピールに躍起だが、市場関係者は「中央銀行同士の取り決めで委託介入を拒否することはあり得ない」としらける。
 秋に中間選挙を控える米国は、産業界から輸出競争力アップを望む声が強く、ドル安は歓迎ムード。欧州も最大の懸案であるインフレ抑止のためにユーロ高ドル安は望ましい。 現状ではともに協調介入に乗り出す状況ではなく、特に米国にとっては米国債急落など資金の海外逃避が起きない限り市場の流れに任せる構えだ。
 週明けからはやや小康状態となった円相場だが、「当面、円高の流れが大きく反転する材料は乏しい」(市場関係者)とされる。円高が、輸出企業の平均想定レートと される1ドル=115円程度を超えれば、輸出だけが頼りとされる景気回復シナリオも大きな修正を迫られることは必至で、当局の焦りは一段と強まりそうだ。
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