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 ※毎週金曜日配信 2002年8月2日 第9号
経済論評
『企業統治はどこに向かうのか』
金原 達夫 広島大学大学院国際協力研究科教授


 1990年代に入って、マスコミでも学界でも企業統治(コーポレート・ガバナンス)が急に言われ出した。確かに、不適切な経営による事故や不正事件を起こすなどの社会的な問題行動が見られるようになった。 また、外国人投資家の割合が高まった株式市場は、株式持ち合いをベースにした企業統治の変更を市場サイドから迫っている。
 ところで、この企業統治(コーポレート・ガバナンス)とはどういう意味で使われているであろうか。盛んに言われているわりに、議論が借り物のような気がする。一般に受け入れられている考えは、 企業統治とは出資者と経営者の関係、およびその反映としての取締役会の構成と機能のことであるとされている。つまり、企業統治とは企業の支配にかかわって論じられている。 企業統治論には、経営者の行動を監視し出資者たる株主の支配権を回復し強めようとする動きがその背後に見られる。
 しかし、これに加えて、企業統治が問題になるのは、企業活動がまったくの私的事業ではなく社会的な性格を持つからである。つまり、企業は、社会的に影響の大きな事故や不正事件を起こさないこと、 社会に対して適切な機能を遂行すること、社会にとって価値ある存在であることが基本的に求められているからである。企業統治が問題となるのは、このように、企業の存在価値と役割について社会の要請があるからである。
 したがって、企業統治は、単に取締役会の構成や取締役会と経営者の関係の問題ではなく、社会の中で企業がどのように位置づけられ役割を果たすべきかということがその根底にある。
 その意味で言うと、企業統治の議論が、米国型の社外取締役の拡充や、経営役員と執行役員の分離に向かっていったのは、企業統治をどのように行うかについての足が地に着いた議論というよりも一時的な流行のようなものである。 このような借り物の企業統治論に終わるならば、実質的には何も変革を起こさないように思われる。例えば、社外取締役が増えたり執行役員を分離したとしても、それによってトップの決定機能が変わることも意思決定の妥当性がチェックされることも少ないと予測されるからである。
 このことは、企業統治は、取締役会を米国型のスタイルにすれば適切に行われるというものではないということである。その意味で、コーポレート・ガバナンスの流行を追いかけようとした日本企業にとって、 エンロンやワールド・コムの事件は眼を覚ましてくれるものとなった。アメリカのシステムにも欠陥はあるのである。もちろん、だからといってアメリカの企業統治はやはりよくないと断定するのは性急である。 アメリカ企業の中には、すぐれた企業統治を実践している企業が多く存在する。システム・制度を修正していくメカニズムが働き、行動はスピーディである。
 今後、わが国の企業統治はどうあるべきか、企業も社会も検討する時期に来ているといえよう。資本市場の国際化の進展や持株会社の解禁によって、企業と社会の関係が新たな段階に達しているからである。
 そして、国際的にも通用する日本社会に適した企業統治を作り出すためには、次のことをチェックすることが必要と思われる。第一に、企業は社会に対して価値ある存在となっているのかという観点から、統治および活動をチェックする。 第二に、社会及び投資家に対して正しい経営情報の公開をする。第三に、組織の構成員の参加を促進して、構成員の主体性と動機付けを高める。第四に、経営者機能を明確にし、その機能を遂行するように、組織の柔軟性と行動力を高めることである。 企業統治が円滑に行われている企業では、これらのことが実践できているといえるであろう。
【プロフィール】 金原 達夫(きんばらたつお)
1969年 神戸大学経営学部卒業
1975年 神戸大学大学院博士課程修了
1988年 広島大学経済学部教授
1994年 広島大学大学院国際協力研究科教授
    マラヤ大学経済行政学部客員教授
    ニューサウスウェールズ大学日本経済経営研究センター客員研究員
経済長編読物
 『株式運用や規模に批判 問われる年金積立金』(7月31日(水))

 将来の年金保険料の負担増を抑えるための公的年金積立金の在り方が問われている。リスクの高い株式での運用などに批判があるためで、厚生労働省は積立金を運用する特殊法人「年金資金運用基金」の見直しを始めた。積立金の規模が必要以上に大きいとの指摘もあり、2004年年金改革の焦点の1つになりそうだ。
 02年度の厚生年金と国民年金の積立金は約150兆円で、市場運用分は約35兆円。同基金は市場運用を段階的に拡大、08年度には全額自主運用する世界最大の機関投資家になる。
 年金制度の設計は積立金からの年4%の運用収入が前提となっており、運用に失敗すれば保険料や給付に影響する。現行計画では08年度には国内株式の運用が現在より11兆円強増えた18兆円と12%を占めるが、同基金の運用能力を疑問視する声が多い。
 このため、政府は昨年末、04年までに同基金の廃止を含め組織を見直すことを閣議決定。厚労省も6月から社会保障審議会運用分科会で運用方針の見直しなどの検討を始めた。
 株式運用自体は「年金が日本経済の成長に投資することには問題がない」(大和総研)と支持する意見も多く、厚労省も「高い利回りには一定の株式運用は不可欠」との姿勢。ただ、運用責任の明確化など組織の見直しを求める声は強く、独立行政法人などへの衣替えなどを模索している。
 少子高齢化で保険料率の引き上げが避けられない中、保険料率が最も高くなる25年度以降でも最低3―4年分の給付を賄う積立金が必要とする厚労省の計画自体への批判もある。
 西沢和彦・日本総合研究所主任研究員は「政府による市場運用は政治的な影響から逃れられず、失敗しても誰も責任が取れない。積立金を取り崩し保険料率の抑制に充てるべきだ」と指摘している。
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